平手正秀の茶とは

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信長のもり役平手政秀のこと。

 

江戸初期に湯浅常山という武士の書いた「常山紀談」という本が、岩波文庫にある。

戦国武将の逸話集だが、この中の話だ。

信長の近習たちが集まりかつての家老・平手正秀を評して、勢力盛んないまのお館様の姿を見ないで自害してしまうなどつまらないことをしたものだ、と言うのを信長がたまたま耳にして大変激怒し、今日自分のあるはかつて政秀があのようにきつく諌めてくれればこそ身の持ちようを変えられたからだ、いまあれほどの名家老はどこを探しても得られるものではない、と言って叱った、という意味のことを記録している。

このように後年まで政秀を懐かしく慕い、信長にとっても特別の人だったのだが、その政秀の娘を13歳下の弟・織田有楽斎が正妻としている。

 

以下は、織田有楽斎の茶修行に平手政秀(信長の守役)の影響があったのではないか、という考察。

 

公家の記録に、天文2年(1533)山科言継 ヤマシナコトツグが尾張の代官・織田信秀を訪れた際、接待した織田家家老平手政秀の数寄振舞いの見事さに「かかる田舎にこのような人物がいるとは」と感嘆したことを記している。 「言継卿記」

他の記録では信秀の代理でたびたび宮中へも献上金などを届ける役目を果たしており、自身も京の公家衆のもてなしを受けることで、堂上の習慣や趣味を習得していたものであろう。

さらには複雑な「宮中典故」をも政秀が学んでいたのではないかと思えるのは、後年に有楽斎が秀吉から将軍御成りの復元を依頼されていることから、室町将軍の儀礼典故の詳細を知るものとして当時目されていたことが窺い知れ、それは有楽があるとき突然学んだと言うものでなく、以前から身近に学ぶ機会と人物に出会えたからと考えるのがより自然に思えるからだ。

このような人物を傍らに見、かつは娘を妻に迎えるほど近くに居た将来の茶人有楽に、影響のなかったはずがない。 

 

数寄の本場京の公家をうならせる政秀の数寄とはどのようなものを、想像すべきだろうか。

 

当時は連歌が盛んだった時代で、各地の武将達も連歌を通して、全国を巡る連歌師を中心に世間の情報を収集していた。尾張地方には公家の三條西実隆や、宗祇、宗長、肖柏といった超一級の連歌師たちがたびたび呼ばれているし、少し以前では宗祇に古今伝授をさずけた豪族・東常縁 トウノツネヨリ が美濃にいる。地方性を感じさせないほど京都文化が盛んに入ってきているのだ。

 

利休の師でもあった武野紹鴎は20代のころ三条西実隆について連歌に打ち込んでいたが、それがこの政秀の時代で、好き(数寄)といえばまだ歌好きを意味していた頃だから、平手政秀の茶も、和歌の伝統浅からぬ尾張の地で和歌世界を趣向とした茶会を展開していたかと思える。

 

床の間に和歌をかけて鑑賞することは、紹鴎に始まるといわれる。

それまでは茶会での掛物の使用は殆ど重視されておらず、掛物があっても禅宗祖師の墨蹟を師影に見立てゝ床の間に掛ける程度であったのを、紹鴎はその状況に飽き足らず、和歌世界の美意識(無常感)を正面に立てることで珠光提唱の侘び世界に没入することを企図したものであろう。

 

ただこの工夫は、そのあとの利休の時代になるとしばらく途切れたようだ。というのは利休自身も、また次世代となる織部も、掛物の使用を控えて重視していなかったからだが、こういう利休の茶風が一世を風靡した下でも、ひとり有楽斎ばかりが茶会での掛物を多用している記録をみると、掛物は有楽に始まったと言えるほど特筆に価するとのこと。因みに、有楽に続くようにして次代の遠州も、師の織部と異なり掛物を重視した茶会趣向を展開するようになる(以上は統計をとった熊倉功夫氏の説)。これは有楽・遠州の茶風を思えば、歌の世界-王朝文化への共感がそうさせるものなのであろうと思わざるをえない。

 

名古屋はいまもお茶の盛んな地で、名のある茶室、焼き物、和菓子など、上質の物産を取り揃えた上での独特の文化をもつが、これは水運と木曽林産を背景に豊かな財を積んだこの地の江戸期以前からの伝統であろう。そういう視点で尾張を見直すと、単に京近傍の文化圏ではない独自の歴史があることを見定めたい。平手政秀はその流れの中に立つ、有力な澪となるに違いない。

 

有楽斎が後年紹鴎の茶を顕彰することに熱意を燃やすのも、他の茶人にはない曽ての尾張の和歌世界(岳父政秀の記憶にからむ時代)を懐かしむ思いがあった為ではないだろうか。

 

 

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