京風と江戸風:栂造作の良さ

2019/04/21 ブログ
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京風と江戸との違いということ。

 

数奇屋の主用材・杉ひとつとってもそれを扱う異なる美意識が様々な違いを見せることに。

大まかに言えば、幅の揃った木目がどこまでもまっすぐといった調子で、あくまで見た目の整斉さを重視するのが江戸風。板目や曲がりや節など適度にあるのが自然の味とするのが京風。役人風と町家風とも言えそう。

軒の垂木や障子の桟見付の木取りで、柾と板目をどの向きに使うかという場合の表れ方などに。

柾目派の吉田五十八と板目派の村野藤吾とみることもできそう。

吉野杉の肌の柔らかさ(江戸からみるとぼんやり)と、秋田杉の肌のきっぱり感(つよい冬目の色と夏目の白さの対照)。「すい」と「いき」の対比。

 

ここまでだと、江戸の数奇屋材料もそれなりに京・大阪と張り合えそうに思えるが、ここで日本栂(ツガ)の美しさを思うと、ちょっと言葉につまるところがある。

 

阪急線沿線の御影、芦屋辺りはいまは少なくなってきたが、かつて大正昭和にかけ関西のお大尽の屋敷町として立派な石垣の奥深く数奇屋住宅が立ち並んでいた時期があった。

かつて機会があってその界隈を訪れるたび、代表的な何件かを拝見させていただいたことがあった。

当時の数奇屋仕事のすばらしさに加えそのときの新鮮な発見はいくつかあったが、なかで最も印象的だったのは、上等な日本栂の美しさ好もしさに出会ったことで、四方柾の柱の美しさはいまもって新鮮である。

 

というのも、われわれのように主に関東を仕事場としている者には、日本栂の建築に出会うことは案外少なく、なにより東京の材木商では日本栂を用意しているところがないというのが実情であろう。

もっともすでに関西でも手薄になっているとは聞くが、九州の知人によれば、まだこちらでは普通に市場にあるとのことであるから、用意できないことではないようだが、それをこちらで遣うとなれば高価なものになってしまうことだろう。

上等の日本栂の味とは、上等の松と上等の杉の両方の良いところを併せ持った味わいだ。材の特徴としては成長が緩やかな分繊維は緻密で、冬目が濃く硬く細かい柾目となり、大工加工に手間がかかるということがやや難点といえる。

 

目の詰んだ地の美しさは関東ではまず見ない良さで、これに対抗する江戸の材を示したいが、ちょっと思いつかない。あちらで桧普請・杉普請をものともせず栂普請を数奇屋住宅の最高峰としてきた伝統があるのも、充分納得がゆく。

 

明治期の数奇屋ではあるが「對流山荘」(伊集院兼常の設計、棟梁島田藤吉、小川治兵衛の作庭)を栂普請の名作として挙げておこう。

 

 

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