堀口捨巳「利休の茶室」
・ここに堀口捨巳著「利休の茶室」という本がある.。
文字通り利休の茶室のことが書かれているのだが、ふつうに読んだのでは面白みに乏しい寸法と記録の羅列ばかりで、なんということもない記事ばかりだが、この論考が1960年度の建築学会賞を受賞しているのだ。
茶室を学び始めた当初、書名の与える期待から、甚だ高価にもかかわらず購入し大事に読み進めたこの本は、そういう訳でこちらの興味を満足させる記事は一向に出てこないのだった。
そうなると建築学会賞まで与えられている意味がわからない。なにか理由があるはずだった。
この本のどこが建築学会賞に価するのか。
この本の価値を説く論説にも出会うことのないまま、あちこちの茶室の研究書を読み歩いて10年ほどたった頃、その価値がようやく姿を現してきた。
堀口のこの論考のもつ価値は、数すくない利休関連記事の載る茶書、手紙、控えのありかを探り当て、自らも古書街を探り求めることは勿論、そのほかにも茶書の、しかも原書を披見できるまでのツテを得るための長い努力の末にやっと出会い、まだコピ-機もない時代に写真を撮り、必要があれば筆写をして難文字を読み解き、数を集めて比較考量し、やっと搾り出した利休好みと呼べると確信できるまでの原液のような一滴を集めて見せた、というところにあるのだ。地味と言えば、たいへん地味な研究だった。
原文で読み解きというが、虫食いのしみだらけの和紙に書かれた毛筆の写本の癖ある文字を読めるようになる訓練だけでも相当根気がいる修練だ。これも自分で経験しないとわからないこと。
一方で、当時の学会の選考委員の中に同様の研究をしている人も少なかったであろうが、そんな堀口の悪戦苦闘とその結果をきちんと評価できる人たちがいたということにもちょっと驚く。
研究分野の広がったいまなら、そんな人がいるであろうことも充分考えられるが。
堀口はこの成果を基礎として、利休についての論考を、茶室・道具・点前へと広げて、さらに有楽、遠州といった茶匠の研究へと及んでゆき、茶室研究の第一人者とされるまでになったのだった。
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